はじめに
養子縁組を考える人がはじめに直面するであろう「血の繋がり」の壁。
僕たち夫婦もめちゃくちゃ悩みましたし考えました。
考えるのに疲れて、子どものことを考えるのを小休止したこともありました。
そんな葛藤を経て、2020年1月に生後7日の娘を迎えました。
いまでは娘も2歳8か月になり、血の繋がりがないことを忘れてしまうぐらい、僕にとってはかけがえのない存在です。
特別養子縁組を選んだということは、「血の繋がりを超えた家族のカタチ」を描けるようになったことと同義だと思っています。
もちろんこれは、特別養子縁組に限らず、普通養子縁組(里親)として子どもを迎える、もしくはパートナーのお子さんと家族になることを決心した方にも当てはまることだと思います。
今回は「血の繋がりを超えた家族のカタチ」を描けるようになるまで、僕が何をどうやって考えたかについて書いていきたいと思います。
不妊治療をされている方、特別養子縁組に興味がある方にとって有益な情報になれば幸いです。
血の繋がりのない子どもの親になるなんて考えたこともなかった
結婚したときには、まわりの人と同じように、すぐに子どもに恵まれると思っていました。
しかし、いわゆる「妊活」を始めて1年経っても子どもができない。
夫婦で不妊検査をしたところ、「無精子症」であることが判明しました。
「無精子症」の診断を受けた時には、頭を何か硬いものでガツンと殴られたかのような衝撃を受けました。
同時に次のような思いがこみ上げてきました。
・なんで?
・たいへんなことになった!
・妻に申し訳ない・・・
・妻に捨てられるんじゃないか
その後、男性不妊用の手術(Micro TESE)を受けたりしましたが、自分と血の繋がった子どもと家族になることは不可能である、ということが分かりました。
術後に主治医から、
「血の繋がった子どもと家族になることは不可能である」ことを告げられたときには、ただただ呆然としていました。
そして主治医が病室を出た瞬間、夫婦で声をあげて泣きました。
いまでは「ない袖は振れない!」と開き直ってますが(笑)
血の繋がりのない子を愛せるか?
最初は愛せないと思っていた
僕たち夫婦に残された選択肢は次の3つ。
- 夫婦ふたりの人生を歩むこと
- 妻とだけ血の繋がった子どもと家族になること
- 妻とも僕とも血の繋がっていない子どもと家族になること
最初は僕のなかでは、2つ目の選択肢しかありませんでした。
なぜなら、
・「妻とも自分とも血の繋がっていない子どもと家族になる」なんて想像もしてなかった
・血の繋がっていない子どもを愛せる自信がなかった
からです。
そして妻が「いいお母さん」になることは確信していましたし、漠然と「親になりたい」と思っていました。
そのため、「夫婦ふたりの人生を歩むこと」についても選択肢から除外されていました。
だから最初は「妻とだけ血の繋がった子どもと家族になること」に向けて情報を集め始めました。
キーワードは”AID”。「非配偶者間人工授精」のことですね。
AIDと特別養子縁組、両方の情報を集めていた
僕たち夫婦は、最後は直感で決めることが多いのですが、そこに至るまでの情報収集は入念におこなうタイプです。
そのため、AIDについてだけ情報を集めるのも少し気持ち悪いというか、少し不安だったので、あわせて特別養子縁組についても情報収集をしていました。
いまとなっては幅広に情報収集をしていたことがすごくよかったと思います。
「AID」と「特別養子縁組」を調べるなかで見えてきたもの
「AID」や「特別養子縁組」について調べるなかで、これまで知らなかった世界が見えてきました。
「社会的養護」という言葉
まずは「社会的養護」という言葉。
言葉の定義を厚生労働省のHPより引用します。(太字、下線の強調は寄り道による)
保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。
社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われています。
それまで「児童養護施設」や「特別養子縁組」という言葉は聞いたことがありました。
しかしながら、
・その根本にあるのがこの「社会的養護」という考え方であり、
・あくまで「子どもの最善の利益」を「社会全体で育んでいく」ことが目指されている
ということを知りました。
日本における家庭内養育率の低さ
そして次に見えてきたのは、
社会的養護下にある子どものうち、家庭内養育をされている子どもの割合が国際的に見ても極端に低いということでした。
社会的養護下にある子どもの人数は、令和2年時点で42,434人。
(より詳しい内訳は引用元の厚生労働省HP「社会的養育の推進に向けて(令和4年3月31日)」のp.4に記載があります)
そのうち、家庭内で養育されている割合は17.5%。
諸外国で最低でも50%前後、最高でオーストラリアの93.5%となっており、
「日本低っ!」と衝撃を受けたのをいまでも覚えています。
(下図を含め日本財団ジャーナルより引用)
AIDを考えるなかで訪れた気持ちの変化
こんなにも世の中に”社会的養護”を必要としている子どもたちがいる
こうやって色々な情報に触れるなかで、世の中には家庭のあたたかさを知らない子どもたちがたくさんいることを知りました。(もちろん児童養護施設や乳児院の職員の方が愛情を持って子どもたちに日々接してくださっていることは承知の上です)
不思議な感覚ですが、
自分が必要とされている、そんな気がしました。
子どもが大人になったとき、出自について目を見て話せるか?
そしてAIDについて色々と調べていくなかで、日本におけるAIDの問題点を知りました。
それは、
「日本では、精子提供者(遺伝上のお父さん)のプライバシー保護のため、匿名で提供されている」ということ。
すなわち、産まれた子どもからすると、自分の片方の出自がわからないということになります。
AIDについては、クリニック主催の勉強会のなかで、AIDを通して親になった方、そしてAIDを通してこの世に生を受けた方のお話を聞き、妻とも対話を重ねました。
もちろんこの世に生を授かった命は、それがどんな方法であれすべてが尊い存在です。
しかしながら、僕たち夫婦は、
「産まれてくるであろう子どもの出自の片方が分からない原因を自分たちで作り出すこと」に対して、胸を張って「Yes」と言えないと思いました。
民間あっせん団体のブログで、妻が当時の心境を書いてくれています。
この記事では踏み込みきれなかった「AIDではなく特別養子縁組を選んだ理由」について、さらに詳しく書いてますのでご興味ある方はぜひ!
吹っ切れた瞬間
そんなこんなで気持ちとしては、特別養子縁組に傾きつつありました。
そしてある時、「血の繋がり」にとらわれなくなった瞬間がありました。
2019年5月12日(日)、当時住んでいた東京都小金井市の小金井公園のベンチにて。
楽しそうに遊んでいる子どもたちたちを遠目に見ながら、”これからのこと”について1人で考え事をしていた時のことです。
2019年5月12日 小金井公園でのメモ
当時のメモが残っていますので、だいぶ大きなこと書いてますがそのまま引用します。
大きな視点で考える。
いま自分が感じているようなあったかい気持ちを持った人が増えれば、世界はもっと平和になるのでは?子どもは授かり物。
授かり方は重要ではないのでは?子どもは未来への種。
未来への種を社会全体地球全体で育んでいくことが大切。加えて、僕は教育(環境)の可能性を信じている。
血縁になぜこだわっていた?
血が繋がっていないと愛せないと思っていたのはなぜ?
そもそも妻とも血が繋がっていないのでは?
いま血が繋がっていない家族の方がかっこいいと思っているのはなぜ?マイノリティ。多様性をかたちづくるという気概。
そういえば、妻と血繋がってたっけ?
一番の発見は、「妻とも血が繋がっていないこと」でした。
血が繋がっていなくても、こんなに楽しい毎日を送れている。
血が繋がっていなくても、こんなにもあたたかい気持ちになれる。
「血の繋がり」に対する不安を吹っ飛ばしてくれたのは、これまでの妻との日々でした。
そしてこの瞬間、「妻とも僕とも血の繋がっていない子どもと家族になること」に向けて進んでいくことを決心したのでした。
おわりに
家族とは「居場所」だと考えています。
すごく抽象的な表現になってしまいますが、例えば、嬉しいことがあった時、悲しいことがあった時、真っ先に思い出す”こころの拠り所”が家族だと考えています。
居場所を見つけるには、色々な方法があっていい。
僕たち夫婦にとっては、その中の一つが「特別養子縁組」だったのかもしれません。
「血の繋がりを超えた家族のカタチ」を思い描くまで、僕はこうやって考えてきました。
もちろんこれが正解だと思っていませんし、色々な考え方があっていいと思っています。
「なるほど、たしかにそういう考え方もできるよね!」と皆さまの考え方の選択肢の一つとなれば、これ以上嬉しいことはありません。
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